研究内容

<アマノリの乾燥耐性機構>

 紅藻スサビノリは、我が国の伝統水産加工食品“海苔”の原藻となるアマノリ属の中でも強い脱水耐性をもつ養殖対象種です。乾海苔には、脱水に弱いはずの多量体タンパク質や酵素が不思議にも崩壊せずに安定に保存されています。海苔のうま味に寄与する酵素は、焼海苔でも活性を保っているというから驚きです! そこで、プロテオミクスをベースとした生化学的手法を用いて脱水耐性関連タンパク質を網羅的に同定し、スサビノリの脱水耐性の分子機構を解明したいと考えています。

<フグ毒結合タンパク質の化学構造解析>

 フグが毒を持つことは皆さんご存知と思います。興味深いことに、フグ毒(テトロドトキシンやサキシトキシン)は、フグの種類の違いで選択的な取り込みがなされることや、それらが蓄積する組織も種や成熟過程によって異なることが知られています。フグの毒蓄積機構を分子レベルで解明する一端として、フグに特有なフグ毒結合タンパク質の多様な分子種とそれらの化学構造を解析しています。

<難解性生物からのタンパク質抽出法と

 難解性タンパク質の同定・構造解析法の開発>

 化学構造解析用の質量分析計(MALDI-QIT-TOFMS)の管理者として、種々の生物に由来するタンパク質の同定をアシストしています。これまでに、プロテオミクスの研究分野で難解性生物といわれるアマノリ、フグ、ウニ、薬用植物ヒヨス、アメリカヤマゴボウなどからタンパク質の抽出法を検討してきました。同定や化学構造解析が難しいとされる難解性タンパク質(システインリッチタンパク質、糖タンパク質、高度修飾タンパク質など)の研究手法の開発にも取り組んでいます。


<海産魚培養細胞の樹立>

 ヒト・マウスなどでは様々な培養細胞が樹立され,実験に使用されています。一方で,魚類由来培養細胞は樹立・報告されていますが,セルバンクなどでは細胞株数が少ないため入手が難しいのが現状です。よって,海産魚由来培養細胞の樹立ならびに専用培地の開発を目指しています。また,赤潮プランクトン毒性機構の解明や細菌・ウイルス感染症研究を進めるため,エラ細胞ならびに腹腔内マクロファージの培養細胞の樹立に取り組んでいます。人工培養魚肉研究も行っております。

<アマノリ由来難分解性高分子物質に関する研究>

 近年,褐藻類からフコイダンが多量に海水中に分泌され,海底に沈殿していることが報告されています。驚くことに,200年前の地層からフコイダンが見つかっており,非常に安定であると言えます。視点を変えるとフコイダンは炭素が主成分ですから,海底に炭素を固定していると言えます。つまり,海藻は食糧だけでなく二酸化炭素固定にも寄与しており,ブルーカーボンとして期待されています。当研究室では,我が国で一番の海藻生産量を誇るアマノリ類に着目して,ノリ養殖がブルーカーボンに寄与できるのか明らかにするため,ノリから分泌される難分解性高分子物質の抽出・解析を行っています。

<海藻由来酸性多糖類の研究>

 海藻にはさまざまな多糖類が含まれており,栄養学的には食物繊維と定義されていますが,これまでの研究によりアルギン酸,アスコフィラン,ポルフィランなどは免疫賦活,抗炎症,抗ウイルス作用など多彩な生物活性を有しています。現在,商品価値の無い色落ちノリ由来ポルフィランの抗炎症作用に着目してアレルギー予防効果の研究を行っています。

<海洋微生物抽出物ライブラリーを活用した抗がん剤の探索>

 医薬品の多くは天然物に由来し,その多くが微生物由来になります。海洋生物からも様々な生理活性物質が見出され,海洋が注目されています。そこで,長崎大学先端創薬イノベーションセンターが所有する海洋微生物抽出物ライブラリーを活用して抗がん剤の探索を行っております。